
この記事では、身近な人にキツく当たってしまう理由を、脳の仕組みからお話しします。結論は、性格の問題ではないということです。考える脳(前頭前野)のブレーキが、疲れやエネルギー不足で弱っているサインです。ブレーキが弱ると、危険を感じて反応する場所(扁桃体)の反応が、そのまま表に出やすくなります。
「子どもや夫にきつい言い方をしてしまって、寝る前にいつも後悔する」
「職場で、つい語気が強くなってしまう」
「普段なら流せるようなことで、カッとなってしまう」
そんなお悩みがある時には、このブログがお役に立てると考えています。
結論からお伝えします。キツく当たってしまうのは、性格のせいではありません。考える脳のブレーキが、疲れて弱っているサインです。
こんにちは、兵庫県小野市でこころ鍼灸整骨院を開業しています院長の作尾大介です。
「あとで自分が嫌になるんです」。院でお話をうかがっていると、こうした言葉を耳にすることがあります。ご自分の性格を責めている方もいますが、体の中で起きていることを知ると、見え方が少し変わってきます。今日はそこをお話しします。
カッとなる瞬間、脳では何が起きているのでしょうか?

脳の中には、役割の違う2つの場所があります。
1つは、扁桃体(へんとうたい。危険を感じて、すぐに反応する場所)です。
嫌な言い方をされた。思い通りに進まない。急かされる。そんなとき扁桃体は、考えるより先に「身構えろ」という合図を出します。
扁桃体は、脳の中で自律神経の働きを調整しているネットワークの一員でもあります。感じたことを、心臓や血管などの反応へつなげる役目を持っています。だから、カッとなると胸がドキドキしたり、顔が熱くなったりします。体が、緊張する側(交感神経)へ一気に傾くのです。
もう1つは、前頭前野(ぜんとうぜんや。おでこの奥にある、考えたり気持ちを抑えたりする場所)です。
こちらは、扁桃体から上がってきた反応を受けとめて、「ここは怒るほどのことではない」と調整します。
研究で、前頭前野は扁桃体などに対して、ふだんからずっとブレーキをかけていることがわかっています。
つまり、カッとならずに済んでいるのは、反応が起きていないからではありません。
反応は起きていて、それをブレーキが抑えてくれているのです。
補足(少し専門的な話です)
前頭前野のブレーキの働きは、心拍変動(しんぱくへんどう。心臓が打つ間隔の、細かなゆらぎ)として測れると考えられています。ブレーキがしっかり働いているときほど、このゆらぎは大きくなります。ブレーキが弱ると、ゆらぎが小さくなるという報告があります。
お酒に酔った人は、なぜ急に怒り出すのでしょうか?
お酒に酔った人を思い浮かべてみてください。
普段ならなんでもないひと言で、急に怒り出すことがあります。急に泣き出したり、まわりの人とけんかを始めたりすることもあります。
あれは、その人の性格が変わったわけではありません。お酒で考える脳の働きが弱り、ブレーキが外れた状態です。
カッとなる瞬間も、これとよく似ています。扁桃体の反応に、前頭前野のブレーキが追いつかない。その結果、反応がそのまま言葉や態度に出てしまうのです。
ですから、きつい言い方をしてしまった自分を「ひどい人間だ」と決めつける必要はありません。起きているのは、ブレーキの力が一時的に足りなくなった、ということです。
なぜ、疲れている日ほど当たってしまうのでしょうか?
前頭前野は、脳の中でもストレスにいちばん敏感な場所だからです。
研究では、前頭前野は軽いストレスでも、働きがすぐに落ちることがわかっています。そして働きが落ちると、扁桃体など原始的な反応へのブレーキが外れやすくなります。
寝不足が続いている。仕事が立て込んでいる。家のことが片づかない。
ひとつひとつは小さな負担でも、重なった日は前頭前野の働きが落ちています。そこへ、いつもなら流せるひと言が届く。ブレーキが追いつかず、言葉がきつくなってしまいます。
脳は、どれくらいエネルギーを使っているのでしょうか?
もう1つ、エネルギーの話があります。
脳の重さは、体重の約2%しかありません。それなのに、体が使うエネルギーの約20%を、脳が使っているという報告があります。
しかも、その消費は何をしていてもほぼ一定で、高いままです。ぼんやりしているときも、脳はたくさんのエネルギーを使い続けています。
脳の主な燃料は、ブドウ糖です。ブドウ糖がきちんと届き、うまく使われることが、脳が働くうえで欠かせないとされています。
燃料が足りないとき、脳は何から節約するのでしょうか?
ここからは、私の考えです。
燃料が足りなくなると、脳は手間のかかる働きから節約していくと考えています。
「状況を考える」「言葉を選ぶ」「気持ちを抑える」。どれも、脳にとっては手間のかかる仕事です。一方、危険に反応するのは、身を守るための仕事なので後回しにできません。
すると、お腹が空いているとき、寝不足のとき、疲れがたまっているとき。そうした場面では、先にブレーキ役のほうが手を抜きはじめます。
同じ出来事でも、疲れている日だけカッとなる。その理由は、ここにあると私は考えています。出来事の大きさが変わったのではなく、受けとめる側の燃料が変わっているのです。
なぜ、あとになって後悔するのでしょうか?
子どもが寝たあと、布団に入ってから。仕事が終わって、帰りの車の中で。
少し時間がたってから、「さっきは言いすぎた」と思い返すことがあります。
私は、これを脳に少し余力が戻ってきたサインだと考えています。
休んだり、ひと息ついたりすると、ブレーキ役の前頭前野がまた働きはじめます。すると、さっきの自分を少し離れたところから、冷静に見られるようになります。「あの言い方はなかったな」と気づけるのは、考える脳が戻ってきたからです。
だから私は、後悔できるのは、ブレーキがちゃんと残っている証拠だと考えています。
ブレーキが壊れてしまったのではなく、疲れて、一時的に力が弱っていた。そう捉えてみてください。
自分を責め続けると、どうなるのでしょうか?
後悔するのは、自然なことです。
ただ、「私はなんてダメなんだろう」と責め続けると、それ自体が新しいストレスになることも考えられます。
前頭前野は、ストレスに敏感な場所でした。責めることで負担が増えれば、次の日のブレーキがさらに弱まる。そんな流れも起こりえます。
大切なのは、責めることよりも、ブレーキが弱っていた理由に目を向けることです。その方法を、このあとのセルフケアでご紹介します。
こんなときは、医療機関を受診してください
イライラや気分の波を、自律神経の不調だと思っていても、ほかの病気が隠れていることがあります。まずは医療機関で検査を受けてください。
症状によっては、医師の診察が必要な場合があります。当院でも施術の前に、医療機関への受診が必要な状態でないかを確認しています。
次のような状態が重なっているときは、うつ病の可能性があります。
- 一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめない
- そこに、眠れない・食欲がない・疲れやすいといった体の症状が重なっている
- そのために、日常生活に大きな支障が出ている
自己判断せず、精神科や心療内科、かかりつけの医師に相談してください。
また、次のようなときは、ひとりで抱えずに相談してください。
- 怒りが抑えられず、自分や誰かを傷つけてしまいそうなとき
- 「死にたい」という気持ちがあるとき(このときは、すぐに相談してください)
こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
厚生労働省の窓口です。かけた場所の、公的な相談窓口につながります。
今日からできることはありますか?

キツく当たってしまった日の夜は、責める代わりに「燃料チェック」をしてみてください。
脳の燃料(ブドウ糖)と休息が足りないとき、ブレーキは弱りやすくなる。私はそう考えています。だから、性格を振り返るのではなく、燃料が足りていたかを振り返ります。
やり方はかんたんです。
- キツく当たってしまった日の夜、寝る前に少しだけ時間をとる
- それが起きた時間帯を書く(例:夕方、夕食の支度をしていたとき)
- その時の自分に、当てはまるものに○をつける
- お腹が空いていた
- 寝不足だった
- 疲れがたまっていた
紙のノートでも、スマホのメモでもかまいません。○は1つでも、3つ全部でも大丈夫です。
誰かに見せるためのものではありません。ご自分のためだけの、短い記録で十分です。
これを1週間続けてみてください。
1週間たったら、メモを見返します。○が多かった時間帯が見えてきたら、その少し前に、おにぎり1個か、5分の休憩を先に入れておきます。
ポイントは、「当たってしまってから」ではなく、「当たりやすい時間の前に」入れることです。ブレーキが弱る前に、燃料と休息を足しておくイメージです。
○がつかない日があっても、かまいません。自分を責める代わりに、理由を探す。その向き合い方を、まずは大切にしてみてください。
まとめ
- キツく当たってしまうのは、性格のせいではありません
- 前頭前野(考える脳)は、扁桃体(危険に反応する場所)にふだんからブレーキをかけています
- 前頭前野はストレスに敏感で、燃料や休息が足りないとブレーキが弱りやすいと考えています
- あとで後悔できるのは、ブレーキがちゃんと残っている証拠です
- 当たってしまった日の夜は、責める代わりに「燃料チェック」をしてみてください
当院では、自律神経そのものではなく、自律神経を調整している脳に働きかけることを大切にしています。ひとりで抱え込まず、気軽にご相談ください。
最後までブログをお読みいただき、ありがとうございました。皆様の健康と、笑顔あふれる毎日を心よりお祈りしております。
(監修:柔道整復師・はり師・きゅう師 作尾大介)
この記事を書いた人

作尾 大介(さくお だいすけ)
- 資格:柔道整復師・はり師・きゅう師(いずれも国家資格)
- 施術歴:2005年より20年以上
- 得意分野:頭痛、肩こり、腰痛、坐骨神経痛、五十肩など、長引く慢性的な痛みと体の不調
- 所属院:こころ鍼灸整骨院(兵庫県小野市中町278-3 ひかりハイツ101)
参考文献・引用元
- Thayer JF, Lane RD. A model of neurovisceral integration in emotion regulation and dysregulation. J Affect Disord 2000;61(3):201-216.
- Benarroch EE. The central autonomic network: functional organization, dysfunction, and perspective. Mayo Clin Proc 1993;68(10):988-1001.
- Arnsten AFT. Stress signalling pathways that impair prefrontal cortex structure and function. Nat Rev Neurosci 2009;10(6):410-422.
- Raichle ME, Gusnard DA. Appraising the brain’s energy budget. Proc Natl Acad Sci USA 2002;99(16):10237-10239.
- Mergenthaler P, Lindauer U, Dienel GA, Meisel A. Sugar for the brain: the role of glucose in physiological and pathological brain function. Trends Neurosci 2013;36(10):587-597.
- 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」うつ病. https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=9D2BdBaF8nGgVLbL
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」電話相談窓口. https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/tel/






コメント