
この記事では、自律神経の乱れと気分の落ち込みの関係をお話しします。結論は、気分は「心」だけで決まるものではないということです。脳は、心臓や呼吸、筋肉の張りといった体の内側の様子を受け取りながら、気分を作っています。体が緊張したままだと、脳は「何かよくないことが起きている」と予測し、気分は沈む方向へ傾きます。
「特に何かあったわけではないのに、気分がずっと沈んでいる」
「人と話すのがおっくうで、誘いを断ってしまう」
「何が原因なのかわからないまま、落ち込んでいる」
そんなお悩みがある時には、このブログがお役に立てると考えています。
結論からお伝えします。気分が沈むのは、気持ちが弱いからではありません。体と脳の仕組みで説明できることです。
こんにちは、兵庫県小野市でこころ鍼灸整骨院を開業しています院長の作尾大介です。
院では、「理由もないのに落ち込む自分が情けない」というお話をよく伺います。原因が見つからないと、その矛先はつい自分に向いてしまいます。
今日は、その「理由」がどこにあるのかを、体の側からお話しします。
気分は、どこで作られているのでしょうか?
気分というと、「心」の問題だと考えるのが普通です。けれども脳の研究からは、少し違う姿が見えてきています。
脳は、体の内側からの信号を絶えず受け取っています。
心臓がどれくらいの速さで打っているか。呼吸は深いか、浅いか。筋肉は張っているか、ゆるんでいるか。お腹は満たされているか。こうした情報が、休みなく脳へ届いています。
そして、この体の内側からの信号が、感じ方や考え方、気分や行動にまで影響することが、研究でわかっています。
気分は、頭の中だけで生まれているわけではありません。
脳は、体の様子を「予測」しているのでしょうか?
もうひとつ、大事な点があります。脳は、体からの信号をただ待っているだけではありません。
「今の状況なら、体はこうなっているはずだ」と、先回りして予測しています。そのうえで、実際に届いた体の信号と照らし合わせています。
体の内側の感覚は、この「予測」と「信号」の照らし合わせから生まれる。そう考える研究が示されています。
お腹が空いているときに、いつもなら気にならない一言にカチンときた。そんな経験はないでしょうか。気分と体の状態は、私たちが思う以上に近いところにあります。
補足(少し専門的な話です)
心臓や呼吸、内臓など、体の内側の状態を感じとる感覚を「内受容感覚(ないじゅようかんかく)」と呼びます。見る・聞く・触れるといった外の世界を感じる感覚とは別の、体の内側に向いた感覚です。この感覚は、脳の予測と体からの信号の照らし合わせで生まれると考えられています。
体が緊張したままだと、なぜ気分が沈むのでしょうか?

前回の記事で、自律神経をエアコンの自動調節にたとえました。設定した温度を保つために、自動で冷やしたり温めたりする働きです。その設定をしているのが脳でした。「病院で「自律神経失調症」と言われたら、体の中では何が起きているのでしょうか?」はこちらです。
ストレスが続いたり、脳が疲れたりすると、この調節が緊張する側(交感神経)に傾いたままになります。エアコンでいえば、設定がずれたまま強い運転を続けている状態です。
すると、体からはこんな信号が脳へ届き続けます。
- 心臓の拍動が速い
- 呼吸が浅く、速い
- 首や肩の筋肉が張っている
これは本来、危ない場面に備えるときの体の状態です。走って逃げる、身を守る。そのための準備の姿です。
脳は、その信号をどう読み取るのでしょうか?
脳は、この信号を受け取って「警戒が必要な状況だ」と読み取ります。周りでは何も起きていなくても、体の内側は「何かある」と伝え続けているからです。
脳がそう予測すると、気分もそれに合わせて、身構える方向へ傾いていくと考えられます。安心して楽しむことより、悪いことに備えることが先になる。気分が沈むのは、その表れの一つだと私は考えています。
さらに、脳の予測と体から届く信号のずれが続くと、それ自体が心と体の不調の土台になりうる。そうした考え方も研究で示されています。
「理由がわからないのに落ち込む」とき、その理由は頭の中ではなく、体の側にあるのかもしれません。
だからこそ、「気持ちの持ちよう」だけで立て直そうとしても、うまくいかないことがあります。体からの信号が変わらないかぎり、脳は警戒を続けるからです。
なぜ、人と話したくなくなるのでしょうか?

ここで関わってくるのが、前頭前野(ぜんとうぜんや:おでこの奥にある、考えたり気持ちを抑えたりする場所)です。
前頭前野は、脳の中でもストレスに最も敏感な場所です。軽いストレスでも、働きがすぐに落ちることがわかっています。
そして前頭前野の働きが落ちると、不安や怖さに関わる場所へのブレーキも外れやすくなります。体の緊張に、心の緊張が重なっていくわけです。
脳は、どれくらいエネルギーを使っているのでしょうか?
脳の重さは、体重の約2%ほどです。それなのに、体が使う酸素とエネルギーの約20%を使っています。
しかも、何をしていても消費はほぼ一定で、高いままです。じっと座って考えごとをしているだけでも、脳はたくさんのエネルギーを使い続けています。
もともと燃費のかかる脳に、ストレスが重なる。すると、考える脳に回せる余力は少なくなっていきます。
人と話すことは、脳にとってどんな作業なのでしょうか?
人と話すとき、私たちは相手の表情を読み、声の調子を聞き分け、言葉を選んでいます。相手の話に合わせて、自分の気持ちを抑えたり整えたりもしています。
どれも、考える脳をたくさん使う作業です。
余力が残っていないときは、人と話すのを避けたくなる。それは、脳が残りのエネルギーを守ろうとする自然な反応だと私は考えています。
人づきあいが嫌いになったわけでも、性格が変わったわけでもありません。
「今は少し休ませてほしい」と、脳が伝えている。そう受け取ってみてはいかがでしょうか。
こんなときは、医療機関を受診してください
気分の落ち込みには、体と脳の仕組みが関わっています。それでも、次のような状態が重なっているときは、まず医療機関に相談してください。
- 一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめない
- そこに、眠れない・食欲がない・疲れやすいといった体の症状が重なっている
- 仕事や家事など、日常生活に大きな支障が出ている
こうした状態が重なっているときは、うつ病の可能性があります。自己判断はせずに、精神科や心療内科、かかりつけの医師に相談してください。
「死にたい」という気持ちがあるときは、ひとりで抱えずに、すぐに相談してください。
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(厚生労働省。かけた所在地の、公的な相談窓口につながります)
また、自律神経の不調だと思っていても、ほかの病気が隠れていることがあります。症状によっては、医師の診察が必要な場合があります。まずは医療機関で検査を受けてください。
当院でも、施術の前に、医療機関への受診が必要な状態でないかを確認しています。
そのうえで、お伝えしておきたいことがあります。
整骨院・鍼灸院でできるのは、体の側からのお手伝いです。こころの病気の診断や、医療機関での診察・お薬の代わりにはなりません。医療機関とあわせて、体のほうからできることを一緒に考えていく。それが当院の役目だと考えています。
今日からできることはありますか?

温かい飲み物を両手で包んで、ゆっくり5口飲んでみてください。
やり方はかんたんです。
- 白湯やお茶など、カフェインの少ない温かい飲み物を用意する(やけどをしない程度の温かさで)
- カップを両手で包むように持ち、手のひらの温かさを10秒ほど感じる
- ゆっくり5口、味わうように飲む
おすすめのタイミングは、朝起きたときと夕方の、1日2回です。
温かさのような、やさしい皮膚への刺激は、ストレスをやわらげる方向に働くと考えられています。ただ、この報告は動物の研究を多く含むまとめです。控えめに受け取っていただくのがよいと思います。
もうひとつの理由は、体の内側の心地よい感覚に、意識を向ける時間をつくることです。
気分が沈んでいるとき、脳には「緊張している」という信号ばかりが届きがちです。手のひらの温かさや、温かいものがお腹へ落ちていく感覚。そうした心地よい信号に、ほんのちょっとだけ気づいてみる時間です。
うまく感じられない日があっても大丈夫です。持って、飲む。それだけで十分です。
まとめ
- 気分は「心」だけで決まるものではなく、脳が体の内側からの信号を受け取りながら作っています
- 脳は体の様子を予測し、実際に届いた信号と照らし合わせています
- 体が緊張したままの信号が続くと、脳は「警戒が必要」と読み取り、気分は沈む方向へ傾きます
- 前頭前野はストレスで働きが落ちやすく、人と話すための余力も少なくなります
- 温かい飲み物を両手で包み、ゆっくり5口。朝起きたときと夕方に試してみてください
気分が沈むのは、気持ちが弱いからではありません。体と脳が、今の状態をそのまま伝えているのだと思います。
当院では、自律神経そのものではなく、自律神経を調整している脳に、体の側から働きかけることを大切にしています。
最後までブログをお読みいただき、ありがとうございました。皆様の健康と、笑顔あふれる毎日を心よりお祈りしております。
(監修:柔道整復師・はり師・きゅう師 作尾大介)
この記事を書いた人

作尾 大介(さくお だいすけ)
- 資格:柔道整復師・はり師・きゅう師(いずれも国家資格)
- 施術歴:2005年より20年以上
- 得意分野:頭痛、肩こり、腰痛、坐骨神経痛、五十肩など、長引く慢性的な痛みと体の不調
- 所属院:こころ鍼灸整骨院(兵庫県小野市中町278-3 ひかりハイツ101)
参考文献・引用元
- Critchley HD, Harrison NA. Visceral influences on brain and behavior. Neuron 2013;77(4):624-638.
- Barrett LF, Simmons WK. Interoceptive predictions in the brain. Nat Rev Neurosci 2015;16(7):419-429.
- Arnsten AFT. Stress signalling pathways that impair prefrontal cortex structure and function. Nat Rev Neurosci 2009;10(6):410-422.
- Raichle ME, Gusnard DA. Appraising the brain’s energy budget. Proc Natl Acad Sci USA 2002;99(16):10237-10239.
- Uvnäs-Moberg K, Handlin L, Petersson M. Self-soothing behaviors with particular reference to oxytocin release induced by non-noxious sensory stimulation. Front Psychol 2015;5:1529.
- 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」うつ病. https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=9D2BdBaF8nGgVLbL
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」電話相談窓口. https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/tel/






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[…] 、イライラ、朝の疲れ、休日のやる気、頭痛や肩こりを、1つずつ取り上げていく予定です。「自律神経が乱れると、なぜ気分まで落ち込むのでしょうか?」で詳しくお話ししています。 […]