
この記事では、「自律神経失調症」と言われたとき、体の中で何が起きているのかをお話しします。結論は、自律神経そのものが壊れているわけではない、ということです。自律神経を調整している「脳のブレーキ」が弱っている状態と考えられます。検査で異常が見つかりにくいのは、部品ではなく「調整の働き方」が乱れているからです。
「病院で『自律神経失調症ですね』と言われたけれど、何が起きているのかよくわからない」
「検査では異常なしなのに、頭痛や肩こり、朝のだるさがずっと続いている」
「気持ちが弱いからこうなるのかなと、自分を責めてしまう」
そんなお悩みがある時には、このブログがお役に立てると考えています。
結論からお伝えします。自律神経そのものが壊れているのではなく、自律神経を調整している「脳のブレーキ」が弱っている状態と考えられます。
こんにちは、兵庫県小野市でこころ鍼灸整骨院を開業しています院長の作尾大介です。
「自律神経失調症と言われたけれど、結局どういうことなんでしょう」。院でよく聞く質問です。名前だけを渡されると、かえって不安が大きくなることもあります。今日は、その言葉の中身を、体の仕組みからお話しします。
自律神経は、どんな働きをしている神経なのでしょうか?
自律神経は、ご自分の意思とは関係なく、自動で反応する神経です。
心臓の動き、汗、呼吸の深さ、血管の太さ、胃腸の動き。こうした体の働きを、考えなくても調整してくれています。
では、何がきっかけで反応するのでしょうか。答えは、体に入ってくる情報のすべてです。
- 目で見たもの、耳で聞いたもの
- 匂いや味
- 体が傾いた、揺れたというバランスの感覚
- ふと思い出したこと
- うれしい、悲しい、腹が立つといった気持ち
たとえば、梅干しを思い浮かべただけで、口の中に唾が出てきます。実際に食べていなくても、思い出すという情報だけで、自律神経は反応しています。
脳には、こうした感覚や気持ちを、心臓・血管・ホルモンの反応へ変えるしくみがあります。研究でも、そのためのネットワークが脳の中にあることがわかっています。
エアコンにたとえると、どういうことなのでしょうか?
エアコンを27度に設定したとします。
外が暑くなっても、窓を開けて空気が入れ替わっても、部屋は27度に保たれます。エアコンが温度の変化を感じとって、自動で調節してくれるからです。
自律神経がしているのは、まさにこの自動調節です。暑ければ汗を出して熱を逃がします。寒ければ血管を細くして、熱を逃がさないようにします。
では、この自動調節が狂うとどうなるでしょうか。
27度に設定したのに、外が暑くなったとたんに冷やしすぎてしまう。空気が入れ替わったことに気づかず、温度が上がり続けてしまう。設定どおりに動かなくなるわけです。
そして、エアコンでいう「温度の設定」をしているのが、体では脳です。
自律神経を調整しているのは、どこなのでしょうか?

自律神経に指示を出しているのは、脳です。
といっても、ご自分で「心臓をゆっくりにしよう」と考えて動かしているわけではありません。意思とは別のところで、脳が自動で調整しています。
このとき大事なのは、脳がブレーキをかけているという点です。
自律神経には、緊張する側とゆるむ側があります。緊張する側を交感神経、ゆるむ側を副交感神経といいます。脳は、交感神経が出過ぎないように、上から抑え続けています。
ブレーキの指令は、おおまかに次の順番で降りていきます。
- おでこの奥にある「考える脳」(前頭前野)
- 脳のいちばん下で、背骨につながる部分(脳幹)
- 背骨の中にある、交感神経の出発点
上から順にブレーキがかかっているので、交感神経は必要なときだけ働きます。会議の前や、急いでいるとき。そうした場面で前に出て、用が済めば引っ込みます。
研究でも、考える脳から脳幹、背骨の中へと、指令が降りていることがわかっています。エアコンでいえば、脳は「設定温度」と「自動制御」の両方を受け持っているわけです。
補足(少し専門的な話です)
背骨の中の交感神経の出発点は、中間外側核(ちゅうかんがいそくかく)と呼ばれます。脳幹の延髄(えんずい)からここへ指令が降り、交感神経の出力が決められています。また、前頭前野は扁桃体(へんとうたい。不安や恐れに反応する場所)などに、ふだんからブレーキをかけています。このブレーキの具合は、心拍のゆらぎ(心拍変動)として測れることが報告されています。
なぜ、検査では「異常なし」と言われることがあるのでしょうか?
検査は、体の「部品」を調べるのが得意です。
レントゲンやMRIは、骨や脳などの形に異常がないかを見ます。血液検査は、血液の中の成分が基準の範囲に収まっているかを見ます。どれも、部品に傷や不足がないかを確かめるためのものです。
ところが、自律神経の不調で乱れているのは、部品ではないことがあります。
乱れているのは、部品をどう調整するかという「働き方」のほうです。
エアコンで考えてみます。本体にも配線にも傷はない。それなのに、温度の調節がうまくいかない。この場合、本体を分解して眺めても、悪いところは見つかりにくいはずです。
体でも同じことが起こります。心臓にも血管にも異常はないのに、ドキドキしたり、汗が出たりする。部品は無事でも、働き方が乱れていると、検査には出にくいことがあります。
「自律神経失調症」は、はっきりした原因が見つからないのに不調が続くとき、使われることがある言葉です。
ですから、「どこも悪くないのだから気のせい」という意味ではありません。検査で大きな異常がないと確かめられたのは、大切な情報です。そのうえで、働き方のほうに目を向けていけばよい、と私は考えています。
ブレーキが弱ると、体にはどんなことが起きるのでしょうか?

脳のブレーキが弱ると、自律神経は緊張する側(交感神経)へ傾きます。
体は、上から抑える力が落ちると、交感神経が前に出やすくなるようにできています。抑えられていた側が、抑えがなくなった分だけ出てくる、というイメージです。
すると、次のようなことが起こりやすくなります。
- 急に汗が出る
- 何もしていないのに、顔がカーッと熱くなる
- 走ってもいないのに、胸がドキドキする、息が苦しくなる
- 夜になっても眠くならず、かえって頭が冴えてしまう
- 気圧が下がると、頭痛や肩こりがきつくなる
- ストレスがかかると、疲れがなかなか抜けない
このとき体の中では、筋肉が硬くなり、呼吸が浅くなり、心拍が上がっています。体がずっと「身構えた」ままの状態です。
エアコンでいえば、冷やしすぎたり、温度が上がり続けたりしている状態です。
汗をかく場面でもないのに汗が出る。休むはずの夜に、体が起きたままになる。設定がずれているので、周りの変化に合わない反応が出てしまいます。
では、なぜブレーキは弱るのでしょうか。
大きな理由のひとつが、脳の疲れです。考える脳(前頭前野)は、ストレスにとても敏感な場所です。軽いストレスでも働きが落ちやすいことが、研究でわかっています。働きが落ちると、不安や恐れに反応する脳へのブレーキもゆるみます。
だから、こうした不調は性格のせいでも、気持ちが弱いせいでもありません。脳と神経の仕組みとして説明できることです。
当院が、自律神経そのものではなく、自律神経を調整している脳に働きかけることを大切にしているのは、そのためです。
こんなときは、医療機関を受診してください
自律神経の不調だと思っていても、ほかの病気が隠れていることがあります。まずは医療機関で検査を受けてください。
症状によっては、医師の診察が必要な場合があります。当院でも施術の前に、医療機関への受診が必要な状態でないかを確認しています。
次のようなときは、早めに受診してください。
- 胸の痛みや締めつけを伴う動悸がある
- 気が遠くなる、気を失ったことがある
- 安静にしていても、息苦しさが続く
- 発熱が続く、急に体重が減った
気分の落ち込みについても、大切なことをお伝えします。
一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめない。そこに、眠れない、食欲がない、疲れやすいといった体の症状が重なる。そうして日常生活に大きな支障が出ているときは、うつ病の可能性があります。
自己判断せず、精神科や心療内科、かかりつけの医師に相談してください。
「死にたい」という気持ちがあるときは、ひとりで抱えずに、すぐに相談してください。
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(厚生労働省。かけた場所の公的な相談窓口につながります)
今日からできることはありますか?

片足立ちを、左右30秒ずつ試してみてください。
バランスの感覚を受け持つのは、前庭(ぜんてい。耳の奥にある、傾きや揺れを感じるセンサー)です。前庭からの情報は、自律神経や不安に関わる脳の回路と重なり合っていることがわかっています。
片足立ちは、このバランスの情報を、脳にしっかり届ける練習です。
やり方はかんたんです。
- 壁や机のそばに立ち、片手を軽く添えられる位置に構える
- 片足を、床から少しだけ浮かせる
- そのまま30秒。反対の足も30秒。左右1回ずつ
おすすめのタイミングは、朝の歯みがきのあとと、夕方の1日2回です。
ふらつきが強い日は、無理をしないでください。手を添えたままで構いません。足を高く上げる必要もなく、床から少し浮けば十分です。
まとめ
- 自律神経は、見たもの・聞いたもの・気持ちなど、入ってくる情報に自動で反応する神経です
- その自律神経を、脳が上からブレーキをかけて調整しています
- 検査で異常が見つかりにくいのは、部品ではなく「調整の働き方」が乱れているからです
- ブレーキが弱ると、体は緊張する側(交感神経)へ傾き、汗・ほてり・動悸などが出やすくなります
- 片足立ちで、バランスの情報を脳に届ける練習から始めてみてください
「自律神経失調症」という言葉の向こうには、脳と神経のちゃんとした仕組みがあります。このシリーズでは、気分の落ち込み、イライラ、朝の疲れ、休日のやる気、頭痛や肩こりを、1つずつ取り上げていく予定です。
最後までブログをお読みいただき、ありがとうございました。皆様の健康と、笑顔あふれる毎日を心よりお祈りしております。
(監修:柔道整復師・はり師・きゅう師 作尾大介)
この記事を書いた人

作尾 大介(さくお だいすけ)
- 資格:柔道整復師・はり師・きゅう師(いずれも国家資格)
- 施術歴:2005年より20年以上
- 得意分野:頭痛、肩こり、腰痛、坐骨神経痛、五十肩など、長引く慢性的な痛みと体の不調
- 所属院:こころ鍼灸整骨院(兵庫県小野市中町278-3 ひかりハイツ101)
参考文献・引用元
- Benarroch EE. The central autonomic network: functional organization, dysfunction, and perspective. Mayo Clin Proc 1993;68(10):988-1001.
- Guyenet PG. The sympathetic control of blood pressure. Nat Rev Neurosci 2006;7(5):335-346.
- Thayer JF, Lane RD. A model of neurovisceral integration in emotion regulation and dysregulation. J Affect Disord 2000;61(3):201-216.
- Arnsten AFT. Stress signalling pathways that impair prefrontal cortex structure and function. Nat Rev Neurosci 2009;10(6):410-422.
- Balaban CD, Thayer JF. Neurological bases for balance-anxiety links. J Anxiety Disord 2001;15(1-2):53-79.
- 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」うつ病. https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=9D2BdBaF8nGgVLbL
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」電話相談窓口. https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/tel/






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