
この記事では、食事を抜いたときのイライラやドキドキを、体の仕組みからお話しします。結論は、脳の燃料であるブドウ糖が下がりかけると、体が緊張する側の仕組みで立て直そうとするからです。そのときドキドキや震えが出ることがあります。さらに、空腹の感覚を「気持ち」と受け取ると、イライラにつながりやすくなります。
「忙しくてお昼を抜いた日の夕方、子どもにきつく言ってしまう」
「お腹が空くと、手が震えたり胸がドキドキしたりする」
「空腹のときほど、嫌なことばかり考えてしまう」
このようなお悩みをお持ちの方に、少しでもお役に立てる情報をお届けできればと思います。
結論からお伝えします。空腹のときのイライラやドキドキは、気持ちが弱いからではありません。脳の燃料を守ろうとする、体の反応です。
こんにちは、兵庫県小野市でこころ鍼灸整骨院を開業しています院長の作尾大介です。
「お腹が空くと、機嫌が悪くなるんです」。院でお話をうかがっていると、こうした言葉を耳にすることがあります。笑いながら話される方もいますが、体の中ではちゃんと理由があって起きています。
大切な家族にきつく言ってしまったあとで落ち込むのは、本当につらいことです。今日はそこをお話しします。
脳は、何を燃料にして働いているのでしょうか?
脳の主な燃料は、ブドウ糖です。
ブドウ糖がきちんと届き、うまく使われること。それが、脳が働くうえで欠かせないとされています。
脳の重さは、体重の約2%しかありません。それなのに、体が使うエネルギーの約20%を脳が使っているという報告があります。しかも、その消費は何をしていてもほぼ一定です。
ですから、燃料の届き方は脳にとって大問題です。研究では、血液の中のブドウ糖が下がりすぎると、脳の燃料が足りず、脳の働きが落ちることが報告されています。
このシリーズの別の記事では、燃料が足りないときに「考える脳のブレーキ」が弱る話をしました。「家族や職場の人に、ついキツく当たってしまうのはなぜでしょうか?」はこちらです。
今日は、そのとき体の側で何が起きているのかに目を向けます。
血糖が下がりかけてドキドキするとき、体の中では何が起きているのでしょうか?

血液の中のブドウ糖の量を、血糖(けっとう)と呼びます。
体は、この血糖をいつも一定の範囲に保とうとしています。エアコンが設定温度を自動で保つのと、よく似ています。
血糖が下がりかけると、体は次の3つを同時に動かします。
- インスリンを減らす——インスリンは、血糖を下げる方向に働くホルモンです。これを控えて、下がる流れを止めます
- グルカゴンを出す——グルカゴンは、血糖を上げる方向に働くホルモンです
- アドレナリンを出す——緊張する側の神経(交感神経:こうかんしんけい)と一緒に働き、体を「非常時」の態勢にするホルモンです
研究では、健康な人では、この仕組みが血糖の下がりすぎを防いでいることが報告されています。
補足(少し専門的な話です)
下がった血糖を、ホルモンで押し戻す働きを「拮抗調節(きっこうちょうせつ)」と呼びます。血糖を下げるインスリンに対して、反対向きに働く仕組みという意味です。グルカゴンとアドレナリンが、その中心になります。
1食抜いただけで、血糖は下がりすぎるのでしょうか?
健康な人であれば、1食抜いた程度で血糖が下がりすぎないように、体が守ってくれています。
ですから、お腹が空いてイライラしたからといって、「低血糖だ」と決めつける必要はありません。
大切なのは、守ってくれている仕組みの中にアドレナリンが入っている、という点です。
アドレナリンが出ると、体はどう感じるのでしょうか?
ここで、ひとつの実験をご紹介します。
これは、実験で人工的に、血糖をかなり低いところまで下げたときの話です。ふだんの生活で、1食抜いたときにここまで下がるわけではありません。
その実験では、自律神経による症状として、次のようなものが出ていました。
- 手の震え、胸のドキドキ、不安な気持ち(アドレナリンに関わるもの)
- 汗、空腹感、ピリピリする感じ
一方で、脳の燃料不足そのものによる症状は、だるさ、考えにくさ、眠気でした。
つまり、ドキドキや震え、不安は、緊張する側の神経が働いたときに出る反応と考えられています。血糖を立て直そうとするとき、体はこの側の仕組みを使います。
空腹のドキドキは、体のどんな働きなのでしょうか?
ここからは、私の考えです。
停電しかけたとき、非常用の発電機が大きな音を立てて動き出す様子を思い浮かべてみてください。音はうるさいですが、明かりを守るために動いています。
血糖が下がりかけたときのドキドキや震えも、これに近いと考えています。燃料を守るための発電機が、少し大きな音を立てている状態です。
体が壊れかけているのではなく、守ろうとして動いている。そう捉えてみることもできます。
空腹だと、なぜ気持ちまでイライラするのでしょうか?
ドキドキや震えは、体の反応です。では、イライラという「気持ち」は、どこから来るのでしょうか。
ヨーロッパの研究グループが、64人に21日間、1日5回ずつ、空腹の具合と気持ちを記録してもらった研究があります。
その結果、空腹が強いときほど、怒りやイライラが強くなっていました。楽しい気持ちは、低くなっていました。
お腹が空いていれば、誰でもイライラするのでしょうか?
そう単純ではないことも、研究で示されています。
アメリカの研究グループは、空腹だけでイライラするのではない、と報告しています。イライラにつながりやすいのは、次の2つが重なったときでした。
- 嫌なこと、思い通りにならないことが起きている
- そのとき、空腹の体の感覚を「気持ち」として受け取っている
お腹が空いたときの、胃のあたりのモヤモヤした感じ。落ち着かない感じ。体は「燃料が欲しい」と伝えているだけです。
ところが、そこに嫌な出来事が重なると、脳はそのモヤモヤを「この状況が嫌だ」「この人のせいだ」と読み違えやすくなります。
空腹の感覚が、イライラという気持ちにすり替わってしまうことがあります。
体の感覚と気分は、どうつながっているのでしょうか?
脳は、心臓や内臓など、体の内側からの信号を絶えず受け取っています。その信号が、感じ方や考え方、気分にまで影響することが、研究で報告されています。
このシリーズの別の記事でも、「脳は体の内側の様子を受け取りながら気分を作っている」とお話ししました。空腹のイライラも、その一つの形だと私は考えています。「自律神経が乱れると、なぜ気分まで落ち込むのでしょうか?」はこちらです。
ドキドキ、震え、胃のモヤモヤ。そうした信号が届くと、脳は「何かよくないことが起きている」と受け取りやすくなります。空腹のときほど嫌なことばかり考えてしまうのは、そのためではないかと考えています。
お昼を抜いた日の夕方は、まさにこの条件がそろいやすい時間です。夕食の支度に追われ、子どもは言うことを聞いてくれない。そこへ空腹の信号が重なります。
きつく言ってしまったのは、性格のせいではありません。体の信号と、目の前の出来事が重なった結果と考えられます。
こんなときは、医療機関を受診してください
空腹のときの不調だと思っていても、ほかの病気が隠れていることがあります。まずは医療機関で検査を受けてください。
症状によっては、医師の診察が必要な場合があります。当院でも施術の前に、医療機関への受診が必要な状態でないかを確認しています。
次のような場合は、内科を受診してください。
- 冷や汗、手の震え、強い眠気、ぼーっとする感じを、何度も繰り返す
- 急に体重が減った
- のどがよく渇き、尿の回数や量が増えた
- 胸の痛みをともなう動悸がある
また、糖尿病で通院していて、血糖を下げるお薬を使っている方へ。こうした症状が出たときは、担当の医師にすぐ相談してください。
気分の落ち込みが続き、何をしても楽しめないときは、精神科や心療内科、かかりつけの医師に相談してください。「死にたい」という気持ちがあるときは、ひとりで抱えずに、すぐに相談してください。
こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
厚生労働省の窓口です。かけた場所の、公的な相談窓口につながります。
今日からできることはありますか?

イラッとしたら、まず心の中で「今、お腹空いてる?」と自分にたずねてみてください。
空腹の体の感覚を「空腹だ」と正しく受け取れると、気持ちと取り違えにくくなる。先ほどの研究からは、そうした考え方が示されています。だから、イラッとした瞬間に、体の感覚に名前をつけてあげます。
やり方はかんたんです。
- イラッとした瞬間に、心の中で「今、お腹空いてる?」と一言たずねる
- 3秒ほど、お腹のあたりに意識を向けて確かめる
- 空いていたら、大事な話や返事は、ひと口食べてからにする
- 食べるものがなければ、水を1杯飲んでからにする
声に出す必要はありません。1回たずねるだけで十分です。
空いていなかったら、それでかまいません。「空腹のせいではなかった」とわかるだけでも、ひとつの手がかりになります。
おすすめのタイミングは、夕方や、食事の時間が遅れている日です。かばんや引き出しに、ひと口で食べられるものを置いておくと、続けやすくなります。
このシリーズの別の記事では、夜に1日を振り返る「燃料チェック」をご紹介しました。あちらは、あとから振り返る方法です。今日の方法は、その場で気づくための方法です。両方を組み合わせてもかまいません。
まとめ
- 脳の主な燃料はブドウ糖で、脳は体のエネルギーの約20%を使っています
- 血糖が下がりかけると、体はインスリンを減らし、グルカゴンやアドレナリンで立て直そうとします
- 健康な人は、1食抜いた程度で血糖が下がりすぎないよう、体が守っています
- ドキドキや震え、不安は、体が燃料を守ろうとするときに出ることがある反応です
- 空腹の感覚を「気持ち」と受け取るとイライラにつながりやすいので、まず「お腹空いてる?」とたずねてみてください
イライラしてしまう自分を責める前に、体が何を伝えているのかに耳を傾けてみてください。
当院では、自律神経そのものではなく、自律神経を調整している脳に働きかけることを大切にしています。ひとりで抱え込まず、気軽にご相談ください。
最後までブログをお読みいただき、ありがとうございました。皆様の健康と、笑顔あふれる毎日を心よりお祈りしております。
(監修:柔道整復師・はり師・きゅう師 作尾大介)
この記事を書いた人

作尾 大介(さくお だいすけ)
- 資格:柔道整復師・はり師・きゅう師(いずれも国家資格)
- 施術歴:2005年より20年以上
- 得意分野:頭痛、肩こり、腰痛、坐骨神経痛、五十肩など、長引く慢性的な痛みと体の不調
- 所属院:こころ鍼灸整骨院(兵庫県小野市中町278-3 ひかりハイツ101)
参考文献・引用元
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- 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」うつ病. https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=9D2BdBaF8nGgVLbL
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」電話相談窓口. https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/tel/






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