
この記事では、生理前に体も気分もつらくなる理由を、自律神経の仕組みからお話しします。結論は、性格や気持ちの弱さではなく、周期のしくみだということです。生理前は、黄体ホルモンの変化にともなって、休む側の神経の働きが下がる時期があります。脳のブレーキが弱まりやすいところに同じストレスがかかるので、体も気分も揺れやすくなります。
「生理前になると、肩甲骨から背中、腰まで重くなる」
「生理前はイライラして、家族に当たってしまう」
「生理前は眠りが浅いのに、昼間は眠くてしかたがない」
このようなお悩みをお持ちの方に、少しでもお役に立てる情報をお届けできればと思います。
結論からお伝えします。生理前のつらさは、性格や気持ちの弱さではありません。休む側の神経の働きが下がりやすい、周期のしくみです。
こんにちは、兵庫県小野市でこころ鍼灸整骨院を開業しています院長の作尾大介です。
「毎月この時期になると、自分が嫌になるんです」。院でお話をうかがっていると、こうした言葉を耳にすることがあります。毎月のことだからこそ、ひとりでがまんを重ねている方も少なくありません。くり返すつらさを抱え続けるのは、本当に大変なことです。体の中で起きていることを知ると、見え方が少し変わってきます。今日はそこをお話しします。
生理前の不調には、どんなものがあるのでしょうか?
生理前に出てくる心と体の不調には、名前がついています。
月経前症候群(げっけいぜんしょうこうぐん。PMSとも呼ばれる、生理前の心と体の不調のまとまり)です。
日本産科婦人科学会によると、生理の前に3〜10日間くらい続く不調のことです。生理が始まると、自然に軽くなったり、消えたりするのが特徴です。
学会のページでは、次のような症状が挙げられています。
- こころの症状:イライラ、気分の落ち込み、不安、気分の浮き沈み、眠れない・眠い、集中できない
- からだの症状:のぼせ、食べすぎ、めまい、だるさ、お腹や頭や腰の痛み、むくみ、お腹や胸の張り、便秘
肩甲骨から腰の重さ。家族へのイライラ。夜の浅い眠りと、昼間の眠気。
バラバラに見えるこれらの不調が、同じ時期にまとまって出てくる。そこに、生理前の不調の特徴があります。
日本産科婦人科学会によると、日本人女性の70〜80%が、生理前に何らかの不調を感じています。また、5%は症状の重いPMSで、日常生活に困難を感じているとされています。
生理前のつらさは、多くの女性の体に起きていることです。ご自分だけが弱いわけではありません。
原因は、わかっているのでしょうか?
はっきりした原因は、まだわかっていません。
学会では、女性ホルモンの変動が影響していると説明しています。排卵のあとから次の生理までの時期を、黄体期(おうたいき)と呼びます。この黄体期の後半に女性ホルモンが急に下がることが、脳の中の伝達物質のバランスを乱すとされています。
ストレスなど、ほかのいくつもの要因も関わっていると考えられています。
生理前は、自律神経にどんな変化が起きているのでしょうか?

自律神経には、緊張する側(交感神経:こうかんしんけい)と、休む側(副交感神経:ふくこうかんしんけい)があります。
休む側の代表が、迷走神経(めいそうしんけい。脳から心臓やお腹へ伸びる、休む側の神経)です。
この2つのバランスを、脳が自動で調整しています。エアコンが、外の暑さ寒さに合わせて温度を保つのと同じです。設定しているのは脳です。
生理の周期で、休む側の神経はどう変わるのでしょうか?
生理の周期と、休む側の神経の働きを調べた研究があります。
37の研究、合わせて1,004人のデータをまとめた分析です。休む側の神経の働きは、生理のあとの時期(卵胞期:らんぽうき)から排卵のあと(黄体期)にかけて下がっていました。そして、生理前に特に下がることが報告されています。
同じ研究グループは、ホルモンとの関係も調べています。
黄体ホルモン(プロゲステロン。排卵のあとに増えるホルモン)がいつもより高い時期ほど、休む側の神経の働きはいつもより低くなっていました。
日本の研究もあります。20〜40代の62人の女性を、生理の周期にそって調べたものです。
症状の少ない人は、周期によって休む側の神経の働きが変わりませんでした。一方、PMSのある人は、生理前に休む側の神経の指標が下がっていたと報告されています。
補足(少し専門的な話です)
休む側の神経の働きは、心拍変動(しんぱくへんどう。心臓が打つ間隔の、細かなゆらぎ)で測ります。休む側の神経がしっかり働いているときほど、このゆらぎは大きくなります。このゆらぎには、脳のブレーキの力も表れると考えられています。ブレーキをかけているのは、前頭前野(ぜんとうぜんや:おでこの奥にある、考えたり気持ちを抑えたりする場所)です。
それは、体にとってどんな状態なのでしょうか?
このシリーズでは、自律神経を脳がブレーキで調整している、とお話ししてきました。
生理前は、そのブレーキ役の一つである休む側の神経が、下がりやすい時期です。すると体は、緊張する側(交感神経)へ傾きやすくなると考えられています。
雨の日にたとえてみます。
同じ雨でも、大きな傘をさしていれば肩は濡れません。でも、小さな折りたたみ傘しかない日は、肩も背中も濡れてしまいます。
生理前は、この傘が小さくなっている時期です。
仕事の量も、家族の言葉も、いつもと同じ。それなのに、同じ雨でずぶ濡れになってしまいます。変わったのは雨の量ではなく、傘の大きさのほうです。
緊張する側に傾くと、筋肉の張り具合を感じとるセンサーの調整が乱れるという報告もあります。肩甲骨から腰にかけての重さも、こうした流れの中で出てくると私は考えています。
なぜ生理前に、イライラや眠りの浅さまで出てくるのでしょうか?
生理前の不調の中でも、いちばんつらいのは気分の症状だとされています。
PMSについてまとめた論文では、イライラ、緊張、落ち込み、涙もろさ、気分の波が、最もつらい症状として挙げられています。その引き金は、性ホルモンの変動だと考えられています。
なぜ、家族に当たってしまうのでしょうか?
前頭前野は、脳の中でもストレスにいちばん敏感な場所と言われています。
研究では、前頭前野は軽いストレスでも、働きがすぐに落ちることが報告されています。働きが落ちると、危険に反応する場所(扁桃体:へんとうたい)へのブレーキが外れやすくなります。
ここからは、私の考えです。
生理前は、もともとブレーキが弱まりやすい時期です。そこへ、いつもと同じストレスが重なります。だから、普段なら流せるひと言に、言葉がきつくなってしまう。
当たってしまうのは、性格が変わったからではありません。ブレーキの力が、一時的に足りなくなっている時期なのです。キツく当たってしまう仕組みは、このシリーズの3本目でも詳しくお話ししています。「家族や職場の人に、ついキツく当たってしまうのはなぜでしょうか?」はこちらです。
眠りが浅いのに、昼間眠いのはなぜでしょうか?
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」にも、生理前の眠りについての記載があります。
生理前の時期(黄体期)は、眠りが浅くなり、昼間の眠気が強くなることがあります。生理前に不調が出やすい人ほど、この傾向がはっきりしているとされています。
夜にしっかり眠れないと、脳は休みきれないまま次の日を迎えます。私は、これが翌日のブレーキをさらに弱める一因になると考えています。
眠りと自律神経の関係は、9本目でお話ししています。「夜になっても頭が冴えて眠れないのは、なぜでしょうか?」はこちらです。
生理前の時期と、どう付き合えばいいのでしょうか?
まず大切なのは、「つらくなる時期が来る」と知っておくことです。
日本産科婦人科学会では、生活の中でできることとして、次のようなものを挙げています。
- 症状日誌をつけて、自分の体のリズムを知る
- ストレスを減らし、気分転換やリラックスの時間をとる
- 心地よいと感じるセルフケアをする
睡眠ガイドでも、月経周期を記録しておくと、睡眠が変わりやすい時期がつかめるとされています。
どちらにも共通しているのは、記録して、自分の周期を知るということです。
体を動かすことは、関係があるのでしょうか?
8週間以上の運動で、PMSの症状が軽くなったという報告があります。
ただし、もとになった研究の多くは質に課題があり、確かとは言えません。体を動かすことと気分の関係は、8本目でお話ししています。「体を動かすと、なぜ気分が軽くなるのでしょうか?」はこちらです。
食事で気をつけることはありますか?
学会のページでは、食物繊維、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、ビタミンB6をとることが挙げられています。あわせて、精製された甘いもの、お酒、たばこを控えることもすすめられています。
こんなときは、医療機関を受診してください
生理前の不調だと思っていても、ほかの病気が隠れていることがあります。まずは医療機関で検査を受けてください。
症状によっては、医師の診察が必要な場合があります。当院でも施術の前に、医療機関への受診が必要な状態でないかを確認しています。
次のようなときは、婦人科に相談してください。
- 生理痛が強く、仕事や家事など日常生活に支障がある
- 生理の出血の量が多い
- 生理のとき以外に出血がある
- 生理と関係なく、不調が続いている
生理前の不調は、婦人科でお薬を使って楽にする方法もあります。ひとりでがまんを続けなくて大丈夫です。
学会では、こころの症状が重いときは、うつ病などではないかを確かめることも大切だとしています。
次のような状態が重なっているときは、うつ病の可能性があります。
- 一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめない
- そこに、眠れない・食欲がない・疲れやすいといった体の症状が重なっている
- そのために、日常生活に大きな支障が出ている
自己判断せず、精神科や心療内科、かかりつけの医師に相談してください。
「死にたい」という気持ちがあるときは、ひとりで抱えずに、すぐに相談してください。
こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
厚生労働省の窓口です。かけた場所の、公的な相談窓口につながります。
今日からできることはありますか?

「体調カレンダー」をつけてみてください。
学会の症状日誌と、睡眠ガイドの「月経周期の記録」を、毎日続けやすい形にしたものです。
やり方はかんたんです。
- 生理が始まった日に、カレンダーに印をつける
- 毎晩、寝る前に「眠り・気分・体」の3つを、○△×で1行だけ書く(例:眠り△ 気分× 体○)
- これを2〜3か月続ける
書くのは、寝る前の1分ほどで十分です。手帳でも、壁のカレンダーでも、スマホのメモでもかまいません。
2〜3か月たったら、見返してみてください。△や×が続きやすい時期が、生理の印から数えて、だいたい同じところに見えてくることがあります。
つらくなりやすい時期がわかったら、先回りで準備ができます。
- その時期は、予定を詰め込みすぎない
- いつもより早めに布団に入る
- 家族に「この時期は少し疲れやすい」と伝えておく
頭痛シリーズでご紹介した「頭痛ダイアリー」は、頭痛の日に印をつけて、きっかけや薬を記録するものでした。体調カレンダーは、生理の周期と、眠り・気分・体の波の重なりを見るためのものです。
婦人科に相談するときに見せると、ご自分の状態を伝えやすくなります。○がつかない日が続いても、かまいません。それも、ご自分の周期を知る大切な手がかりです。
まとめ
- 生理前の心と体の不調は、多くの女性に起きていて、生理が始まると軽くなるのが特徴です
- 生理前は、休む側の神経の働きが下がりやすいことが、研究で報告されています
- 脳のブレーキが弱まりやすい時期に同じストレスがかかるので、体も気分も揺れやすくなります
- つらさは性格や気持ちの弱さではなく、周期のしくみです
- 「体調カレンダー」で、つらくなりやすい時期を知り、先回りで準備してみてください
当院では、自律神経そのものではなく、自律神経を調整している脳に、体の側から働きかけることを大切にしています。毎月のことだからこそ、ひとりで抱え込まず、気軽にご相談ください。
最後までブログをお読みいただき、ありがとうございました。皆様の健康と、笑顔あふれる毎日を心よりお祈りしております。
(監修:柔道整復師・はり師・きゅう師 作尾大介)
この記事を書いた人

作尾 大介(さくお だいすけ)
- 資格:柔道整復師・はり師・きゅう師(いずれも国家資格)
- 施術歴:2005年より20年以上
- 得意分野:頭痛、肩こり、腰痛、坐骨神経痛、五十肩など、長引く慢性的な痛みと体の不調
- 所属院:こころ鍼灸整骨院(兵庫県小野市中町278-3 ひかりハイツ101)
参考文献・引用元
- 日本産科婦人科学会「月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)」. https://www.jsog.or.jp/citizen/5716/
- Schmalenberger KM, Eisenlohr-Moul TA, Würth L, et al. A systematic review and meta-analysis of within-person changes in cardiac vagal activity across the menstrual cycle. J Clin Med 2019;8(11):1946.
- Schmalenberger KM, Eisenlohr-Moul TA, Jarczok MN, et al. Menstrual cycle changes in vagally-mediated heart rate variability are associated with progesterone. J Clin Med 2020;9(3):617.
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- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」. https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
- Pearce E, Jolly K, Jones LL, et al. Exercise for premenstrual syndrome: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. BJGP Open 2020;4(3):bjgpopen20X101032.
- 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」うつ病. https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=9D2BdBaF8nGgVLbL
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」電話相談窓口. https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/tel/






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