
この記事では、体を動かすと気分が軽くなる理由をお話しします。結論は、体を動かすと脳に届く感覚の情報が増えるからです。心臓へ向かう休む側の神経の働きとも、深く関わっています。研究をまとめた分析でも、気分の落ち込みや不安に良い影響が報告されています。大切なのは、続けられる形で小さく始めることです。
「通っていたヨガに行かなくなってから、なんとなく調子が悪い」
「運動したほうがいいのはわかっている。でも、続かない」
「散歩から帰ってきたあとは、少しだけ気持ちが軽い」
そんなお悩みがある時には、このブログがお役に立てると考えています。
結論からお伝えします。体を動かすことは、脳に「今の体の状態」を届ける大切な入力です。
こんにちは、兵庫県小野市でこころ鍼灸整骨院を開業しています院長の作尾大介です。
「運動したほうがいいのは、わかっているんです」。施術のときに、この言葉をよく耳にします。わかっているのに続かないのは、気持ちが弱いからではありません。今日は、体を動かしたときに脳で何が起きているのかをお話しします。
体を動かすと、脳には何が届くのでしょうか?

歩いているとき、体の中ではたくさんの情報が脳へ向かって流れています。
- 筋肉から:どれくらい伸びているか、どれくらい力が入っているか
- 関節から:ひざや足首が、今どの角度に曲がっているか
- 足の裏から:地面のかたさ、体重がどこにかかっているか
- バランス感覚から:頭が傾いていないか、どちらへ動いているか
ふだんは意識していませんが、一歩ごとにこれだけの情報が届いています。
脳は、届いた情報をどう使っているのでしょうか?
脳は、入ってくる感覚の情報から「今、体はどんな状態か」をつかみます。そして「次に何が必要になるか」を予測して、先回りで体を整えています。研究でも、脳はこうした予測にもとづいて体を調整していると考えられています。
エアコンの自動調節を思い浮かべてみてください。
27度に設定すると、エアコンは部屋の温度を測りながら、自動で27度に保とうとします。このとき頼りにしているのは、温度を測るセンサーの情報です。センサーからの情報が届かなければ、エアコンは正しく調節できません。
脳も同じです。私は、脳は入力があって初めて、正しい反応を出せると考えています。
一日じっと座ったままの日は、脳に届く体からの情報がぐっと減ります。そこへ体を動かすと、筋肉や関節、足の裏から、たくさんの情報がまとめて届きます。脳にとっては、体の状態をつかみ直す材料が増えることになります。
バランス感覚は、気持ちとどう関わっているのでしょうか?
耳の奥には、頭の傾きや動きを感じとるバランス感覚の器官があります。
研究では、このバランス感覚の情報が、自律神経や不安に関わる脳の回路と重なり合っていることがわかっています。体が揺れたり傾いたりする情報と、心の落ち着きに関わる情報は、脳の中で近いところを通っているということです。
歩くと、頭は一歩ごとに少しずつ上下し、左右に揺れます。そのたびに、バランス感覚からの情報が脳へ届いています。
補足(少し専門的な話です)
耳の奥にあるバランス感覚の器官を、前庭(ぜんてい)と呼びます。また、脳が先を予測して体を整える働きは、アロスタシス(予測による調整)と呼ばれています。体温や血圧を「決まった値に戻す」だけでなく、「これから必要になる状態へ先に合わせる」という考え方です。
心臓と自律神経には、どんな関係があるのでしょうか?
心臓は、自律神経の影響をとても受けやすい臓器です。
自律神経には、緊張する側の交感神経と、休む側の副交感神経があります。心臓には、この両方の神経が届いています。交感神経は心拍を上げるアクセル、副交感神経は心拍を落ち着かせるブレーキの役目です。
心臓へ向かう休む側の神経は、迷走神経(めいそうしんけい。脳から心臓や胃腸へ向かう、休む側の神経)と呼ばれます。
迷走神経と運動する力は、どう関係しているのでしょうか?
研究では、心臓へ向かう迷走神経の働きと、運動する力が深く関係していると報告されています。運動する力とは、体を動かし続けられる力のことです。
体を動かすことと、心臓のブレーキ側の神経は、別々のものではありません。つながった一つの仕組みとして働いています。
心臓のリズムには、何が表れるのでしょうか?
このシリーズでは、自律神経を調整しているのは脳だとお話ししてきました。「病院で「自律神経失調症」と言われたら、体の中では何が起きているのでしょうか?」はこちらです。
おでこの奥にある前頭前野(ぜんとうぜんや。考えたり、気持ちを抑えたりする場所)は、不安や緊張の反応にブレーキをかけています。研究では、このブレーキの働きが、心拍のゆらぎ(心拍変動)として測れることがわかっています。ブレーキが弱まると、心拍のゆらぎは小さくなります。
心臓のリズムは、脳のブレーキの働き具合を映す鏡のようなものです。体を動かすことと気分の関係を考えるとき、心臓はその間をつなぐ大事な場所になります。
当院が「自律神経」そのものではなく、自律神経を調整している「脳」に働きかけているのも、この考え方が土台になっています。
体を動かすことと気分の関係は、研究でどこまでわかっているのでしょうか?
体を動かすことと気分の関係は、これまでに多くの研究で調べられてきました。
ここでは、たくさんの研究をまとめて分析した報告を2つご紹介します。一つひとつの研究ではなく、多くの研究を見渡した結果なので、全体の傾向をつかむのに向いています。
うつ病の方を対象にした研究では、何がわかったのでしょうか?
うつ病の方を対象にした218の研究、約1万4千人分のデータをまとめた分析があります。
この分析では、ウォーキングやジョギングなどの運動で、うつの症状が中程度軽くなったと報告されています。特別な道具や施設がなくてもできる運動が含まれているのは、心強いところです。
健康な人も含めた研究では、どうだったのでしょうか?
もう一つは、97のまとめ研究(約12万8千人)を総覧した報告です。
対象には、健康な人も含まれています。体を動かすことは、気分の落ち込み・不安・心理的な苦痛に、中程度の良い影響があったと報告されています。
「中程度」という控えめな言い方ですが、これだけ多くの研究を合わせても同じ方向の結果が出ています。体を動かすことは、気分を支える選択肢の一つとして、研究の上でも報告が積み重なってきています。
通院中の方は、何に気をつければいいのでしょうか?
今、病院に通っている方や、お薬を飲んでいる方は、運動を始める前に、担当の医師に相談してください。
そして、運動をお薬や通院をやめる理由にはしないでください。体を動かすことは、医療の代わりではありません。医療と並べて、一緒に考えていくものです。
運動が続かないときは、どうすればいいのでしょうか?
まずお伝えしたいのは、「続かなかった自分」を責めなくていいということです。
続かないのは、性格のせいなのでしょうか?
脳が疲れているときは、新しいことを始めるだけでも大仕事です。私は、続かないのは怠けではなく、脳のエネルギーの問題だと考えています。
続けられなかった経験は、「自分には無理だった」という証拠ではありません。そのときの体と脳には、少し大きすぎた、というだけのことです。
休んでいた分は、一気に取り戻したほうがいいのでしょうか?
しばらく休んでいると、「今日こそ1時間歩こう」と思うことがあります。
でも、急に長い時間を動くと、翌日に疲れや筋肉の痛みが残りやすくなります。そうすると、また動くのがおっくうになってしまいます。取り戻すより、今日の体に合う量から始めるほうが続きやすくなります。
何から始めればいいのでしょうか?
運動の時間を新しく作らなくても、体を動かす場面は生活の中にあります。
- エレベーターではなく、1階分だけ階段を使う
- 洗濯物を干すときに、背伸びをして腕を高く上げる
- 買い物のときに、お店の入口から少し離れた場所に車を停める
どれも、「運動」と呼ぶほどのものではありません。それでも、筋肉や関節、足の裏から脳への入力は確かに増えます。
以前していたことに戻るのは、どうでしょうか?
ヨガなど、以前続けていたことがあれば、そこへ戻るのも一つの選択肢です。体が覚えている動きは、新しいことを始めるよりも、気持ちの負担が軽いことがあります。
もちろん、戻らなくてもかまいません。今の生活に合う形を、ゆっくり探してみてください。
こんなときは、医療機関を受診してください
自律神経の不調だと思っていても、ほかの病気が隠れていることがあります。まずは医療機関で検査を受けてください。症状によっては、医師の診察が必要な場合があります。当院でも施術の前に、医療機関への受診が必要な状態でないかを確認しています。
体を動かすときは、次のことにも気をつけてください。
- 運動中に胸の痛み、強い息苦しさ、めまいが出たときは、すぐに運動をやめて医療機関を受診してください
- 心臓や血圧、関節などに持病のある方は、運動を始める前に医師に相談してください
気分の落ち込みについても、お伝えしておきます。
- 一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめない、という状態があるとき
- そこに、眠れない・食欲がない・疲れやすいといった体の症状が重なっているとき
- そのために、日常生活に大きな支障が出ているとき
こうした場合は、うつ病の可能性があります。自己判断せず、精神科や心療内科、かかりつけの医師に相談してください。
「死にたい」という気持ちがあるときは、ひとりで抱えずに、すぐに相談してください。
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(厚生労働省。かけた場所の地域の公的な相談窓口につながります)
今日からできることはありますか?

テレビを見ながら、その場で3分、足踏みをしてみてください。
外に出なくてもかまいません。着替えなくてもかまいません。家の中で、今いる場所でできる動きです。
やり方はかんたんです。
- 足を腰幅に開いて、まっすぐ立つ
- 腕を、前後に軽く振る
- 太ももを、いつもより少し高めに上げて、その場で足踏みする
- これを3分続ける
ふらつきが気になる方は、壁や机に片手を添えて行ってください。
おすすめのタイミングは、テレビを見ているときと、歯みがきをしているときです。歯みがきのときは、腕は振らずに足踏みだけでもかまいません。
まずは1日1回から始めてみてください。足の裏や太もも、バランス感覚から、脳へ情報が届く時間になります。
気分がどう変わるかは、日によって違います。何も変わらない日があっても、それで大丈夫です。慣れてきたら、この3分を外を歩く時間に置き換えてみるのもよいと思います。
まとめ
- 体を動かすと、筋肉・関節・足の裏・バランス感覚から、脳へ届く情報が増えます
- 脳は届いた情報をもとに体の状態を予測し、先回りで調整しています
- 心臓へ向かう迷走神経の働きと、運動する力は深く関係しています
- 多くの研究をまとめた分析で、体を動かすことが気分の落ち込みや不安に良い影響を与えたと報告されています
- 続かなかった自分を責めず、その場での足踏み3分のような小さな動きから始めてみてください
体を動かすことは、がんばるためのものではなく、脳に体の様子を伝えてあげるためのものです。今日の3分が、ご自分の体と脳への小さな合図になればうれしいです。
最後までブログをお読みいただき、ありがとうございました。皆様の健康と、笑顔あふれる毎日を心よりお祈りしております。
(監修:柔道整復師・はり師・きゅう師 作尾大介)
この記事を書いた人

作尾 大介(さくお だいすけ)
- 資格:柔道整復師・はり師・きゅう師(いずれも国家資格)
- 施術歴:2005年より20年以上
- 得意分野:頭痛、肩こり、腰痛、坐骨神経痛、五十肩など、長引く慢性的な痛みと体の不調
- 所属院:こころ鍼灸整骨院(兵庫県小野市中町278-3 ひかりハイツ101)
参考文献・引用元
- Sterling P. Allostasis: a model of predictive regulation. Physiol Behav 2012;106(1):5-15.
- Balaban CD, Thayer JF. Neurological bases for balance-anxiety links. J Anxiety Disord 2001;15(1-2):53-79.
- Thayer JF, Lane RD. A model of neurovisceral integration in emotion regulation and dysregulation. J Affect Disord 2000;61(3):201-216.
- Gourine AV, Machhada A, Trapp S, Spyer KM. Cardiac vagus and exercise. Physiology (Bethesda) 2019;34(1):71-80.
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- Singh B, Olds T, Curtis R, et al. Effectiveness of physical activity interventions for improving depression, anxiety and distress: an overview of systematic reviews. Br J Sports Med 2023;57(18):1203-1209.
- 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」うつ病. https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=9D2BdBaF8nGgVLbL
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」電話相談窓口. https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/tel/






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