
この記事では、やさしく触れられると気持ちが落ち着く理由をお話しします。結論は、皮膚に、ゆっくりやさしく触れられたときに働く専用の神経があるからです。その知らせは、体の状態を感じとる脳の場所に届きます。そこは、自律神経を調整する仕組みの一部です。
「強くもまれるのが苦手で、マッサージを受けても体に力が入ってしまう」
「子どもの頃、背中をさすってもらうと、なぜか安心して眠れた」
「家族に肩へそっと手を置かれると、それだけでほっとする」
そんなお悩みがある時には、このブログがお役に立てると考えています。
結論からお伝えします。皮膚には、ゆっくりやさしく触れられたときに働く専用の神経があり、その知らせは自律神経を調整する脳の仕組みへ届きます。
こんにちは、兵庫県小野市でこころ鍼灸整骨院を開業しています院長の作尾大介です。
「強く押されるのは苦手なんです」。施術の前に、そう打ち明けてくださる方は少なくありません。強い刺激が苦手なのは、我慢が足りないからでも、体が弱いからでもありません。やさしい触れ方に体がほっとするのには、神経の仕組みとしての理由があります。今日はそこをお話しします。
やさしく触れられたとき、どの神経が働いているのでしょうか?
皮膚には、触れたものを感じとる神経がたくさん通っています。
その多くは、「どこを」「どんなふうに」触られたかを、すばやく正確に伝える神経です。目を閉じていても、背中に指で書かれた字を当てられる。それは、この神経のおかげです。
ところが皮膚には、もう1種類、まったく性格の違う神経があります。ゆっくりやさしく触れられたときに働く、専用の神経です。
C触覚線維(シーしょっかくせんい)と呼ばれています。スウェーデンの研究グループが、この神経の働きを詳しく調べてきました。
この神経は、腕や背中など、毛の生えている皮膚にあります。家族に手を置かれてほっとする肩や背中も、ちょうどこの神経がある場所です。
この神経は、どんな触れ方のときによく働くのでしょうか?
この神経には、はっきりした「好み」があります。
ひとつめは速さです。やわらかい筆で腕を撫でる実験では、1秒に1〜10cmほどのゆっくりした速さのときに、最もよく働きました。
そして、撫でられた人が「いちばん心地よい」と答えたのも、同じ速さのときでした。神経がよく働く速さと、気持ちいいと感じる速さが、ぴたりと重なっていたのです。
ふたつめは温かさです。皮膚と同じくらいの温かさ(32℃)で撫でたときに、最もよく働きました。冷たいものや熱いもので撫でると、反応は弱くなりました。
つまり、この神経が好むのは、ゆっくり・やさしく・人肌の温かさです。
1秒に1〜10cmといっても、ぴんと来ないかもしれません。手のひら1つ分を2〜3秒かけて動かすと、ちょうどこの範囲に入ります。子どもの背中をさするときの、あのゆっくりした手つきを思い浮かべてみてください。
その知らせは、脳のどこに届くのでしょうか?

ここが、この神経のいちばん興味深いところです。
ふつうの触覚の知らせは、脳の「体性感覚野(たいせいかんかくや)」へ届きます。触った場所や形を、細かく見分ける場所です。
ところが、C触覚線維の知らせは、主に別の場所へ向かいます。島皮質(とうひしつ)です。脳の奥のほうにあり、体の状態や気持ちを感じとる場所です。
どうやって、それがわかったのでしょうか?
先ほどの研究グループは、細かい触覚を伝える太い神経を失った方に協力してもらいました。この方は、ふつうの触覚がほとんど伝わりません。
その方の皮膚をゆっくり撫でると、かすかに「心地よい」と感じたそうです。脳の働きを画像で調べると、島皮質が働いていました。一方で、触った場所を見分ける体性感覚野は、働いていませんでした。
やさしく触れられたときの知らせは、「どこを触られたか」よりも、「いま、どんな感じか」として受けとられている。そう考えられています。
島皮質と自律神経は、どうつながっているのでしょうか?
このシリーズでは、自律神経を「エアコンの自動調節」にたとえてきました。設定温度を決めて、外の変化に合わせて強さを調整しているのが脳です。「病院で「自律神経失調症」と言われたら、体の中では何が起きているのでしょうか?」はこちらです。
エアコンは、温度計の知らせを見ながら、風の強さを決めています。脳にとっての温度計にあたるのが、体のあちこちから届く知らせです。
脳には、感覚や気持ちを、心臓・血管・内臓の反応へと変える神経のネットワークがあります。島皮質は、そのネットワークの一部です。
つまり、皮膚からのやさしい知らせは、自律神経を調整している脳の仕組みの、入口のひとつに届いていることになります。
補足(少し専門的な話です)
C触覚線維は、神経の周りを包む「さや」(髄鞘:ずいしょう)を持たない、細い神経です。そのため、知らせが伝わる速さはゆっくりです。島皮質を含め、感覚や気持ちを自律神経の反応へ変える脳のネットワークは、「中枢自律神経ネットワーク」と呼ばれています。
撫でられると、体にはどんな変化が起きるのでしょうか?
ここからは、実際に体の反応を測った研究をご紹介します。
赤ちゃんでは、どんな変化が見られたのでしょうか?
生後9か月の赤ちゃんを、速さを変えて撫でた実験があります。
心拍が下がったのは、1秒に3cmで撫でたときだけでした。遅すぎても、速すぎても、心拍は下がりませんでした。
言葉で「気持ちいい」と言えない赤ちゃんの体も、ゆっくりした速さにはっきり応えていたことになります。
撫でる側と撫でられる側で、違いはあるのでしょうか?
恋人同士のペアで、3つの場面を比べた実験があります。相手に撫でられるとき、相手を撫でるとき、自分で自分を撫でるとき、の3つです。
3つとも、心地よいと感じられていました。ところが、心拍がはっきり下がったのは「撫でられる」ときだけでした。
同じ「撫でる」でも、誰かに撫でてもらうことには、特別な意味がありそうです。
長く撫で続けると、どうなるのでしょうか?
40人に協力してもらった実験では、ゆっくり撫でる刺激を35分続けました。
すると、心拍変動(心拍のゆらぎ)が上がりました。同じように振動を当てた場合は、上がりませんでした。
心拍変動は、脳が自律神経にブレーキをかける働きを映す目安と考えられています。ブレーキが弱ると、心拍変動は下がります。
ただし、この実験では、ストレスホルモンや気分の数値には差が出ませんでした。体の反応は動いても、それがそのまま「気分が晴れた」につながるとまでは言えません。
痛みの感じ方は、変わるのでしょうか?
熱による痛みを使った実験もあります。
ゆっくり撫でると、熱の痛みが和らぎました。一方で、速く撫でたり、振動を当てたりしても、痛みは和らぎませんでした。
ここでも、ポイントは「ゆっくり」でした。
これらの研究から、どこまで言えるのでしょうか?
正直にお伝えしておきます。ここでご紹介したのは、どれも少ない人数で、実験室の中で調べた研究です。
その場で起きた変化を測ったもので、続けるとどうなるかまでは、まだわかっていません。
それでも、ゆっくりやさしく撫でられると、心拍がゆるやかになる。そうした報告が、いくつも重なっています。
なぜ当院は、強く押したりもんだりしないのでしょうか?

ここまでの研究を、もう一度ふり返ってみます。
- この神経は、1秒に1〜10cmほどのゆっくりした速さで、最もよく働く
- 皮膚と同じくらいの温かさのときに、最もよく働く
- 速く撫でる刺激や振動では、心拍変動や痛みの変化が見られなかった
当院が強く押したりもんだりしないのは、この神経の働きを大切にしているからです。
施術では、ゆっくり、やさしく触れることを心がけています。施術の前には手を温めて、冷たい手で触れないようにしています。皮膚と同じくらいの温かさのときに、この神経が最もよく働くからです。
このシリーズでお話ししてきたとおり、当院が働きかけたいのは「自律神経」そのものではありません。自律神経を調整している「脳」です。やさしい触れ方は、その脳へ届く入口のひとつです。
強い刺激を好む方もいらっしゃいますし、それを否定するつもりはありません。研究から言えるのは、「速い刺激や振動では、この神経の働きは得られにくい」というところまでです。
また、やさしく触れれば自律神経の不調が整う、とお約束するものでもありません。脳へ届く入口を大切にしたい、という当院の考え方です。
首や肩を強くもむことについては、頭痛シリーズの「肩や首は、強くもんでもらうほど良くなるのでしょうか?」でもお話ししています。
こんなときは、医療機関を受診してください
自律神経の不調だと思っていても、ほかの病気が隠れていることがあります。まずは医療機関で検査を受けてください。症状によっては、医師の診察が必要な場合があります。
次のようなときは、早めに医療機関へ相談してください。
- 軽く触れられるだけで、ピリピリと痛む
- 服がこすれるだけで、つらく感じる
やさしい触れ方は、本来は心地よく感じられるものです。それがかえってつらいときは、神経そのものに不調が起きている可能性もあります。
気分の落ち込みが続き、日常生活に大きな支障が出ているときは、精神科や心療内科、かかりつけの医師に相談してください。自己判断はしないでください。
「死にたい」という気持ちがあるときは、ひとりで抱えずに、すぐに相談してください。こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556) では、かけた場所の公的な相談窓口につながります。
当院でも、施術の前に、医療機関への受診が必要な状態でないかを確認しています。
今日からできることはありますか?
ご家族やパートナーと、ゆっくり撫で合ってみてください。
やり方はかんたんです。
- 始める前に、両手をこすり合わせて温めておく
- 相手の背中か腕に、手のひらをそっと当てる
- 手のひら1つ分を、2〜3秒かけて動かすくらいの速さで撫でる
- これを1分続けたら、役割を交代する
押す力はいりません。手のひらの重さをのせるくらいで十分です。
この速さは、C触覚線維が最もよく働く「1秒に1〜10cm」の範囲に入ります。手を温めておくのは、皮膚と同じくらいの温かさのときに、この神経が最もよく働くからです。
そして、自分で撫でるより、誰かに撫でてもらうほうが、心拍の変化が大きかったという報告があります。だから、ひとりでさするより「撫で合う」のがおすすめです。
おすすめのタイミングは、寝る前や、一日の終わりにひと息つくときです。

ひとりのときは、温かいタオルを、首の後ろや腕に1分当ててみてください。
お湯で濡らして固く絞ったタオルを使います。熱すぎないことが大切です。手首の内側に当てて、「心地よい温かさ」と感じるくらいを目安にしてください。熱すぎると、この神経の反応はかえって弱くなります。
頭痛シリーズでは、ひとりで前腕をさする方法をご紹介しました。今回は、「誰かに撫でてもらうこと」と「温かさ」がポイントです。心地よいと感じる範囲で、無理なく試してみてください。
まとめ
- 皮膚には、ゆっくりやさしく触れられたときに働く専用の神経(C触覚線維)があります
- この神経は、1秒に1〜10cmほどの速さと、皮膚と同じくらいの温かさのときに、最もよく働きます
- その知らせは、触った場所を見分ける場所ではなく、体の状態を感じとる島皮質へ届きます
- 島皮質は、自律神経を調整する脳のネットワークの一部です
- ゆっくり撫でられると心拍がゆるやかになる、という実験の報告があります
強くもまれるのが苦手なのは、わがままでも、我慢が足りないからでもありません。やさしい触れ方に体がほっとするのには、ちゃんと神経の理由があります。
最後までブログをお読みいただき、ありがとうございました。皆様の健康と、笑顔あふれる毎日を心よりお祈りしております。
(監修:柔道整復師・はり師・きゅう師 作尾大介)
この記事を書いた人

作尾 大介(さくお だいすけ)
- 資格:柔道整復師・はり師・きゅう師(いずれも国家資格)
- 施術歴:2005年より20年以上
- 得意分野:頭痛、肩こり、腰痛、坐骨神経痛、五十肩など、長引く慢性的な痛みと体の不調
- 所属院:こころ鍼灸整骨院(兵庫県小野市中町278-3 ひかりハイツ101)
参考文献・引用元
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- Löken LS, Wessberg J, Morrison I, McGlone F, Olausson H. Coding of pleasant touch by unmyelinated afferents in humans. Nat Neurosci 2009;12(5):547-548.
- Ackerley R, Backlund Wasling H, Liljencrantz J, et al. Human C-tactile afferents are tuned to the temperature of a skin-stroking caress. J Neurosci 2014;34(8):2879-2883.
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- Triscoli C, Croy I, Steudte-Schmiedgen S, Olausson H, Sailer U. Heart rate variability is enhanced by long-lasting pleasant touch at CT-optimized velocity. Biol Psychol 2017;128:71-81.
- Liljencrantz J, Strigo I, Ellingsen DM, et al. Slow brushing reduces heat pain in humans. Eur J Pain 2017;21(7):1173-1185.
- 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」うつ病. https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=9D2BdBaF8nGgVLbL
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」電話相談窓口. https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/tel/






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